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【学会レポート】哲学と「現実」世界 哲学者はコンサルタント・アドバイザーとしてどのような働きをすることができるのか

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2019年6月19日、北海道大学で、講演会「哲学と『現実』世界 哲学者はコンサルタント・アドバイザーとしてどのような働きをすることができるのか」が開催された。講演者は、ドイツの「哲学コンサルティング会社」創業者であり、ハレ大学で博士号を取得した経歴を持つトマス・ヴィルヘルム氏だ。講演は主に哲学を専攻する大学院生に向けて行われ、会場は若手研究者たちであふれた。哲学×ビジネスの第一線で活躍する彼は、何を考え、どんな活動をしているのだろうか。また、若い哲学者たちに何を伝えたいのだろうか。今回は、「若い哲学者たち」の一人として講演会に参加した筆者が、当日の様子をお届けする。

プロジェクト・フィロソフィ」創業者、トマス・ヴィルヘルム氏とは?

トマス・ヴィルヘルム氏は、ドイツの哲学コンサルティング会社プロジェクト・フィロソフィの創業者かつ共同経営者だ。ミュンヘンと東京を中心に活動する彼は、哲学コンサルタントとして活躍する一方で、リーダーシップ・生産的議論・異文化コミュニケーションなどにフォーカスした研修を実施している。これまでに延べ10,000人以上の責任者・経営者・専門家を指導してきた実績を持ち、提携企業には富士通、サノフィ、グッドイヤー、NTTデータをはじめとする大企業が名を連ねる。彼は言語哲学についての論文でハレ大学より博士号を取得、コミュニケーションや企業倫理を扱った複数の著作がある。

哲学者の強みとは?―問題と向き合う「体系的」なスキル

ヴィルヘルム氏はまず、簡単に自身の仕事内容を紹介した。氏が手掛けるコンサルタントやセミナーで中心的な位置を占めるのは、「コミュニケーション」、「リーダーシップ」、「生産的議論」、「コンフリクトマネジメント」などだ。ヴィルヘルム氏は、これらを理解したり実際に指導したりする際、哲学を通して培った能力が活かされていると語る。

では、哲学を通して、私たちはどのような能力を身につけられるのだろうか。「哲学者」と聞くと、超然とイスに座って思考実験を繰り広げ続ける人たち、というイメージがあるかもしれないが、ヴィルヘルム氏によると哲学者は次のような「スキル」に秀でているという。

  • 概念を明晰に分析する能力
  • 合理的な理由づけ
  • クリティカルシンキング
  • 大局的な視点
  • ネガティブ・ケイパビリティ(曖昧、不確実なことに忍耐する能力)
  • 勤勉さ
  • 独自の思考方法

また、哲学者がビジネスの現場で役に立つのは、これらの能力のいくつかを「断片的に」持っているからではなく、「体系的に」備えているからだという。上記のスキルのうちどれかが得意だというだけではその効用は半減してしまうそうだ。例を見てみよう。

例1:「クリティカルシンキング」のみを持っている場合
クリティカルシンキングは、問題を解決するよりも、むしろより深い問題を浮き彫りにしてしまう。「ネガティブ・ケイパビリティ」や「独自の思考方法」をあわせ持っていることで、はじめて具体的な解決方法が導かれる。

例2:「概念を明晰に分析する能力」のみを持っている場合
分析する能力だけでなく、その概念についての知識を持っていなければ、応用して現場で使うことができない。哲学者の勤勉な研究姿勢や蓄積してきた知が、概念を役に立つツールへと変換する。

問いを投げかける哲学コンサルタント―問題の本質を特定し、視野を広げる

次にヴィルヘルム氏は、哲学コンサルタントがどのように指導を行えるか、事例を交えながら説明した。以下は、「仕事を前進させるための、適切な質問の投げかけ方」の一例だ。

  • 話を開始させる(「○○についてどう思いますか?」)
  • 問題の本質を特定するよう仕向ける(「それは、何を意図しているのですか?」)
  • 相手の視野を広げさせる(「他にも方法はありますか?」)

こうした場面では、あらゆる問題を洗い出す「クリティカルシンキング」や、全体に通底している課題・関心事を見抜く「大局的な視点」など、哲学と関係する複数の能力が活かされるだろう。

ヴィルヘルム氏から研究者たちへのメッセージ―哲学者×ビジネスマンとして

最後にヴィルヘルム氏は、会場の若い哲学者に向けて次のようなアドバイスをして講演を締めくくった。大切なのは、実践の場で話を聞く能力を磨くこと、自身の感情に自覚的になること、単純化を恐れないこと、違う分野の人と一緒に働くこと、そして何よりも、この「現実」世界へと勇気を持って飛び出すことだ、と。

講演後の質疑応答時間では、「学界に残ろうとは思わなかったのか?」、「今学生だったら、また哲学コンサルという道を選ぶか」などの質問が飛び交い、学生たちはヴィルヘルム氏の経験や考えに興味津々だった。そんな彼らに、ヴィルヘルム氏のメッセージは力強く響いたことだろう。

筆者としては、ヴィルヘルム氏の親切な人柄や、考えを伝えようとする丁寧な話し方なども印象に残るものだった。彼のように、研究・学界という枠を超えて、ビジネスの世界を渡り歩いていくためには必須の要素なのだろう。最後にそのことを付記して、本記事の結びとしたい。