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【連載】哲学×ビジネスの今

第二回:哲学コンサルティングの種類と方法──何が「哲学」コンサルティングなのか?

前回は、欧米を中心に広がりを見せている「哲学コンサルティング」の概要をお届けした。今回は、その内容や種類、方法に迫っていきたい。なお、具体的な事例やその成果については、第三回、第四回でお届けする。

哲学コンサルティングの種類とは?
経営理念の創造から、現場の社員教育まで

さて、哲学コンサルティングは、哲学的な知見・思考法・態度・対話を、何らかの仕方でビジネスや組織運営に応用するものであった。前回の記事でも紹介したL. マリノフ氏は、哲学コンサルタントとして長年活躍する人物だが、彼は、哲学コンサルティングには次の種類があると述べている。

A. 企業・経営理念 (mission) の構築(とその根拠づけ)
B. 倫理規定 (ethics-code) の策定と実行
C. コンプライアンスの達成
D. 動機づけ面接の提供(コーチング)
E. 組織内コンフリクトの解決
F. 短縮版ソクラティク・ダイアログ(哲学対話)の実施
G.リーダーシップ・ガバナンス技術の伝達

以上の7つを便宜上分類してみると、①企業・経営理念の構築と根拠づけ(A)、②倫理規定・コンプライアンス策定と実現 (B, C)、③哲学ワークショップやコーチング等を通じた課題解決(D, E, F)、④経営や事業に寄与する哲学知の教授(A, G)の4つに集約することができる。以下、それぞれ想定される利用方法について考えてみたい。

①企業・経営理念の構築と根拠づけ

この哲学コンサルティングは、当該企業が自社事業を通して何を目指しているのかを明確にしていく。ここでは、自分たちの企業がどのような世界観を提示したいのか、あるいは、どのような理念を実現したいのかについて、共に考え、深めていく。そして、それを言語化ないし再構成していくことが最終的な目的だ。これは主に、哲学コンサルタントとクライアントとの哲学的な対話によって進められるケースが多いが、場合によっては、役員・社員等を含めることで、経営理念について理解を深めてもらう、あるいは、あらためて考えてもらい、協働で作りなおしていくための機会を提供することもある。

ここで哲学者の仕事となるのは、事業の目的やカギになる概念をクライアントから引き出すこと、そしてシャープなものにすることだ。同時に、それらを協働で、批判的かつクリエイティブに構築し、言語化していくことも求められる。

②倫理規定・コンプライアンス策定と実現

①の、企業・経営理念の構築と根拠づけをするコンサルティングが企業の「ミッション」にかかわるのに対して、②は「倫理規定(ethics-code)」やコンプライアンスにかかわっている。企業には、自社事業が倫理的・法的に問題ないものであるかをチェックする責任と、その方針を策定する必要がある。こうした場面で、哲学者に相談を求められた際、倫理学の専門知を土台としたアドバイスをするのである。

このような、ビジネス倫理学にかかわる哲学コンサルティングについては、比較的歴史が長く、既に定着化しつつある。

③哲学ワークショップやコーチング等を通じた課題解決

このコンサルティングは、実に多様な目的で行われる。例としては、コンセプトメイキング、マーケティングリサーチ、アイデアワーク、チームビルディング、モチベーション向上、コミュニケーション改善、合意形成、思考力の涵養などが挙げられる。哲学的思考を用いたワークショップ研修や個人コーチングは、哲学コンサルティングのもっともポピュラーなスタイルだともいえるだろう。

哲学的な探究の場をデザインし、対話空間をコーディネートする哲学者のことを「ファシリテーター」と呼ぶが、その進行方法は多岐に渡る。中でも、欧米で主流の「ソクラティク・ダイアログ(SD)」と呼ばれる哲学探究法は、参加者の合意と概念の明晰化に重きを置く手法だ。SDの遂行過程では、事例・具体的経験が列挙され、その一般化・抽象化が繰り返される。これは、個々人の論理的思考力・構成力を鍛えるのに適した手法だといえるだろう。

一方、本邦では、一般市民が集い、対話を通じて思考を深めていく哲学カフェや哲学対話のスタイルが親しまれている。ビジネス・企業向けでは、「哲学シンキング®」が日本の大手企業でも導入され、クロス・フィロソフィーズ株式会社が、ファシリテーターを養成する「哲学シンカー®養成・認定講座」を開講している。

企業がその目的に応じた哲学ワークショップを導入すれば、効果の高い社員研修につなげることができる。

経営や事業に寄与する哲学知の教授

最後に紹介するこのコンサルティングは、①に挙げた企業理念の構築や再構成、裏付けにもかかわっている。哲学的な知見に晒されることによって、企業理念はより洗練された、普遍的なものへと深化するだろう。過去の哲学者たちが紡いできた思想は、数百年、数千年の時の中で、繰り返し吟味され、評価されてきた、まさに「いぶし銀」だ。それは、現代に生きる私たちの生き方や理念を説明し、補強する際にも大いに活用できる。

同様に、組織のマネジメントやリーダーシップにかんする哲学的な知見を提供することで、企業はガバナンスの改善を計ることができる。そこでは、哲学コンサルタントがクライアントの希望や要望を丁寧に聞きほぐしながら、必要とされる哲学の専門知や理論をまとめていく。伝達方法としては、クライアントへ直接的にレクチャーする、報告書やステートメントに仕上げる、研修の一環として講演するなど、様々な形がある。

──本記事では、哲学コンサルティングの一般的な方法と理論的な面に注目した。次回、第三回記事では、海外における哲学コンサルティングの事例とその成果を紹介したい。